自賠責で因果関係が否定された場合の対処方法とは? その3
こんにちは。
弁護士の大薄(おおすき)です。
前々回、前回に引き続き、クリープ現象による追突事故の和解についてです。
前回までのお話で、裁判所から
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被害者の方が事故で受傷した事実は認められる。
治療費は、相手方保険会社が対応した期間である6か月分は認める。
慰謝料は、通院期間3か月程度の範囲で認める。
調整金として、9か月分までの治療費に相当する金額を認める。
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という内容の和解案が提示されたこと及び当該内容で和解が成立したことをお伝えしました。
今回は、裁判所から提示された当該内容の和解案が良い内容であると感じた理由について解説いたします。
まず、こちら側の立場から当該和解案を分析します。
今回の事故は、クリープ現象による追突事故です。
必要な治療期間が個別的に異なるとはいえ、事故態様が極めて軽微であることからすると、相当な治療期間は3か月程度であると認定されてもおかしくない状況です。
そのため、慰謝料を3か月とする判断は、ある程度やむを得ないものであり、かえって、治療費が6か月分認められたことは、こちら側にとって非常に有利な内容といえます。
次に、相手側の立場から当該和解案を分析します。
今回、相手方がこちら側に訴えを先行してきた理由は、自賠責により因果関係否定の判断がなされたことにあります。
通常、相手方保険会社は、先行して支払った治療費などを自賠責保険に後から請求することとなります。
このように、自賠責保険に最終的な経済的負担をさせることで、任意保険会社は、自社の経済的損失を回避しようとします。
今回は、自賠責保険が因果関係否定の判断をしたため、相手方保険会社は、すでに支払った治療費等を自賠責保険に請求できなくなりました。
そのため、こちら側にすでに支払った治療費等の返還を求めてきたのです。
もっとも、相手方の立場からすると、任意保険会社が自社の経済的損失を回避できれば、訴訟の目的を達成できることとなります。
そして、裁判所の判断は、和解によるものであっても、自賠責保険は、その判断を尊重する傾向にあります。
それゆえ、裁判所が因果関係肯定の判断をすれば、その判断に従って、任意保険会社は、被害者に支払った金員を自賠責保険に請求できることとなります。
自賠責保険の限度額は、傷害部分に限定すると、120万円となります。
今回の和解は、すでに支払った治療費や新たに認められた慰謝料等を合計すると概ね120万円の支払いを相手方保険会社に命じるものとなっています。
従って、相手方保会社の立場からしても、最終的に全額を自賠責保険に請求できるため、自社の経済的損失を回避するという目的を達成できたこととなります。
以上のように、対立当事者間の利益を調整する和解案を提示するには、裁判官としても、交通事故事件に関する深い理解が要求されます。
東京地方裁判所民事第27部の裁判官は、交通事故のみを取り扱う専門部です。
専門部ならではの双方の利益に配慮した和解案であったと考えます。
次回は、今回の案件に関するより良い解決策についてお話したいと思います。