むちうちとは?

 交通事故の被害に遭われた方の中には、追突等による衝撃で、頚部が前後に鞭のようにしなった結果、長期にわたって頚部(首)に痛みを抱える方がいらっしゃいます。
 このような症状を一般的にむちうちといいますが、むちうちという正式な傷病名はなく、「頚椎捻挫」、「頚椎挫傷」、「外傷性頚部症候群」等の総称を示します。

むちうちで弁護士に相談するメリットとは?

通院治療

 むちうち事故の場合は、一般的に、3か月から6か月程度で症状が改善されることが多いこともあり、被害者の方に痛みが残っていたとしても、3か月から6か月を目安に、保険会社が治療費の支払いの打ち切りを提案してくることがあります。しかしながら、法的観点からみたときに、保険会社による打ち切りの提案時期が適切でない場合もあります。むちうち事故を弁護士に相談することで、打ち切り提案に対する適否や適切でない場合の対処方法の提案を受けることができます。

示談交渉

 一般的に、保険会社は、被害者側に弁護士が付いていない場合、自賠責基準に従って慰謝料(肉体的・精神的苦痛に対する賠償金)を提示してきます。
 自賠責基準とは、自賠責保険に基づく慰謝料算定基準のことをいいます。自賠責保険とは、自動車を所有する者が法律により加入を義務付けられている保険です。そして、自賠責保険の制度趣旨は、自動車事故における最低限度の補償を確保する点にあります。それゆえ、自賠責基準に基づき算定された慰謝料は、あくまでも自動車事故における慰謝料の最低限度のものといえます。
 これに対して、裁判は適切な補償を目的としており、通常、裁判所基準に基づき算定された慰謝料は、自賠責基準に基づき算定された慰謝料より高くなります。
 そのため、弁護士に相談することで、提示されている慰謝料が妥当であるか否か、弁護士が依頼を受けて活動するメリットがあるか否かを検討することができます。

むちうちの慰謝料とは?

 交通事故の損害賠償事件に関しては、裁判例が集積されていることもあり、受傷内容や入通院期間に応じて、ある程度、慰謝料の相場が決まっています。
 この入通院慰謝料の相場について記載された文献が、いわゆる「赤い本」と呼ばれる「民事交通事故訴訟 損害賠償算定基準」(日弁連交通事故センター東京支部)です。
 赤い本には、入通院慰謝料の相場に関して別表Ⅰと別表Ⅱの2つの算定表が掲載されています。別表Ⅱとは、むちうち症で他覚的所見がない場合等に使用される基準です。
 交通事故事件の示談交渉を弁護士に依頼する場合、弁護士は、依頼者の方の症状と入通院期間を基礎に、別表Ⅰ・Ⅱの基準に従って、獲得できる慰謝料の相場を算定します。
 例えば、むちうち症など他覚的所見がない場合で、6か月の通院期間を要したときには、赤い本別表Ⅱの基準に従うと、慰謝料の金額は、89万円となります。
 示談交渉は、早期解決のため、双方に譲歩が要求されるので、一般的に、別表Ⅰ・Ⅱの基準に従って算定される金額の80から90%でまとまることが多いです。
 以上が、むちうち事故における示談金額の相場に関する説明となりますが、これらは、あくまでも弁護士に依頼した場合の相場であることに注意が必要です。
 弁護士に依頼することなく提示された示談金額は、一般的に、赤い本を基準とした金額よりも低額ですが、過失割合によっては、提示された示談案が適正なこともあります。
 無用な紛争を回避するために示談金の査定であっても、交通事故を得意としている弁護士に相談することをおすすめします。

むちうちによる後遺障害とは?

むちうちによる後遺障害の種類

 むちうちによる頚部痛で認定可能性のある後遺障害等級は、14級9号と12級13号となりますが、むちうちによる後遺障害が認定される場合は、14級9号となることが大多数であり、12級13号となることは極めてまれです。
 12級13号と14級9号を分けるポイントは、レントゲンやMRI画像に明らかな異常所見があるか否かによりますが、むちうちによる頚部痛で画像上明らかな異常所見が認められることは極めてまれです。

後遺障害の判断要素

後遺障害14級9号との関係(局部に神経症状を残すもの)

 14級9号で問題となるむちうちの後遺障害は、レントゲンやMRI画像に明らかな異常所見が認められない場合であるため、被害者の方の訴え(愁訴)の信用性を判断することとなります。そのため、事故態様、通院期間、通院頻度、疼痛の一貫性、神経学的所見、年齢、処方内容等の諸般の事情を総合考慮して後遺障害該当性が判断されます。

後遺障害12級13号との関係(局部に頑固な神経症状を残すもの)

 14級9号で問題となるむちうちの後遺障害は、前述の諸般の事情に加えて、レントゲンやMRI画像に明らかな異常所見が認められることを前提とします。また、仮に、画像上明らかな異常所見が認められたとしても、当該異常所見が事故により生じたものであることも必要となります。

むちうちとヘルニアの意味

 交通事故の被害にあわれた方の中には、事故後のMRI検査により、頸椎や腰椎にヘルニアが見つかることがありますが、頸椎や腰椎にヘルニアが認められることは、交通事故におけるむちうちの後遺障害等級認定との関係で、どのような意味を持つのでしょうか。 

後遺障害14級9号との関係(局部に神経症状を残すもの)

 「局部に神経症状を残すもの」(14級9号)と認められるためには、神経症状の原因が医学的に説明できるものであれば足ります。ヘルニアが医学的に証明できるものとまでは認められないとしても、事故による神経症状が発症していれば、その間、定期的かつ継続的に通院されるのが通常ですから、通院頻度や通院期間を考慮して、14級9号の認定がなされることがあります。

後遺障害12級13号との関係(局部に頑固な神経症状を残すもの)

 局部に頑固な神経症状を残すもの」(12級13号)と認められるためには、神経症状の原因が医学的に証明できるものでなければなりません。MRI検査により、頸椎や腰椎にヘルニアが見つかれば、そのヘルニアが圧迫している神経と症状が一致している限り、神経症状の原因に対する医学的な証明になりえます。もっとも、MRI画像上、明らかに神経を圧迫している所見がなければ、医学的に証明できるものとまでは認められません。
 また、仮に、ヘルニアが明らかに神経を圧迫していることが認められたとしても、ヘルニアは、加齢によっても生じるため、交通事故とヘルニアの因果関係も問題となります。
 このように、ヘルニアが認められても、12級13号の後遺障害が認められるためには、非常に厳しいハードルが設けられており、実務上、むちうちによって12級13号が認められることは、極めて困難といえます。

むちうちの後遺障害申請方法

 交通事故の後遺障害申請は、相手方保険会社に任せる方法(事前認定)と被害者自身が行う方法(被害者請求)の2つがあります。
 事前認定は、対立関係にある当事者に手続きを委任する手続きです。そのため、出すべき資料を出さなかったり、出さなくて良い資料を出したりされる恐れがあり、適切な後遺障害認定を受けられない可能性があります。
 これに対して、被害者請求は、ご自身で資料を用意する必要があります。事前認定のような手続きを進める中での不適切な対応を防止することはできますが、資料をご自身で集めるなどの手間が掛かることとなります。
 後遺障害申請を弁護士に依頼することとなれば、弁護士が後遺障害申請の資料収集などのサポートをさせていただきますので、ご自身の手間は、少なくなることとなります。

まとめ

 むちうちによる後遺障害を獲得するためには、後遺障害申請に至るまでの通院フォローと被害者請求による後遺障害申請が重要となります。むちうちによる症状が長引いている方は、お早めに弁護士へ相談されることをおすすめいたします(法律相談はこちら)

保険会社が軽微事故であることを理由にむちうちを否定してきた場合

無傷限界値(閾値)論

 交通事故の被害にあわれた方には、車両の損害が軽微であったことを理由に、受傷の事実について疑義を持たれた結果、保険会社から治療費の支払いを拒否される、または、治療中であるにもかかわらず治療費の支払いを打ち切られるという方もいらっしゃいます。
 このような場合、保険会社ないし保険会社側の弁護士は、工学鑑定の意見書を持ち出し、「本件のような軽微な追突事故では、むちうちによる受傷が生じる余地はない」と主張してくることがあります。
 このように、ある一定の重力加速度や一定の衝突速度では受傷しないとする論理を、無傷限界値(閾値)論といいます。

無傷限界値(閾値)論に対する対処方法

 このような無傷限界値(閾値)論に対しては、社団法人日本損害保険協会の委託により組織された「事故解析共同研究会」が行った被験者72名に対する衝突実験のうち、車体の平均加速度が1.1ないし2.1G程度であっても、むち打ち症が発症することが明らかとなったとされ、ある一定の重力加速度や一定の衝突速度では受傷しないとする無傷限界値(閾値)論は妥当でないと指摘されているところです(羽成守弁護士・藤村和夫教授『検証 むち打ち損傷-医・工・法学の総合研究-』(平成11年))。
 それゆえ、軽微な追突事故ではむちうちによる受傷が生じる余地はないとする保険会社ないし保険会社側の弁護士の主張は、絶対的なものではないといえます。
 もっとも、軽微でない事故と比較すると受傷が生じる余地は低いことも事実ですので、事故態様が軽微な追突事故の場合には、治療経過に関する診療録等に基づき、受傷の事実を積極的に立証する必要があります。
 また、事故により受傷したか否かという争点は、対立が大きいため、裁判所による解決に移行せざるを得ないことが通常です。