机上の空論ではないか?交通事故の被害者側を専門とする実務家の弁護士からみた最高裁令和4年7月14日第一小法廷判決 その1

交通事故の被害者側の事件を専門とする千葉の弁護士の大薄です。

先日、法律的にもかなり難しい話の絡んだご案件が東京高裁で和解により終結しました。

以下、話を簡略化してお伝えします。

被害者の方は、追突事故で受傷されました。

しかしながら、加害者側は受傷結果の発生を否認したため、対応しませんでした。

もっとも、労災の適用があったため、被害者の方は、労災保険で通院治療していました。

被害者の方は、労災保険での治療終了後に、労災保険で後遺障害14級9号を獲得しました。

その後、加害者の自賠責保険に対して、後遺障害申請を実施しましたが、労災保険の判断と異なり、自賠責保険は、被害者の方に対する後遺障害を認定しませんでした。

このように労災保険と自賠責保険の後遺障害認定結果が異なること自体は、少なからず発生することではあるのですが、問題となったのは、傷害部分の支払いについてです。

加害者の任意保険は、被害者の受傷結果と事故との因果関係を否定しましたが、加害者の自賠責保険は、後遺障害は認められないものの、受傷結果との因果関係は肯定しました。

被害者の方の通院頻度などを考慮すると、自賠責保険から、その上限である120万円の支払を受けられることが想定されましたが、傷害部分の自賠責保険金の支払いにつき、すでに労災保険からの求償に応じた部分を差し引いた支払いしか受けられませんでした。

この点について、まず、少し説明します。

被害者の方が労災保険を利用して治療した場合、被害者の方の中には、労災保険が治療費を支払うため、加害者側の任意保険が治療費を支払わずに得をしていると思う方もいらっしゃるのですが、通常、労災保険は、病院に支払った治療費を加害者側に請求します。

例えば、労災保険の支払った治療費が80万円であったとします。

労災保険が、病院へ支払った80万円の治療費を自賠責保険に請求して、自賠責保険が労災保険に支払った結果、自賠責保険が被害者に支払える残額は、40万円となります。

今回のケースも上記の例と同様で、労災保険が約80万円の治療費を先に自賠責保険に請求して、自賠責保険が支払った結果、被害者に支払われた自賠責保険金は約40万円でした。

さて、このような自賠責保険の運用は適切なのでしょうか。

一見すると、適切なようにも思いますが、続きは次回といたします。