自賠責基準が裁判所基準を上回る場合?! その2
前回の続きです。
先ほど、仮に、死亡との因果関係が認められるとすれば、総損害額の概算は3000万円程度の試算となり、その1割は、300万円となり、仮に、死亡との因果関係が認められないとすれば、総損害額の概算は、200万円程度の試算となり、その1割は、20万円となるとご案内させていただきました。
これは、あくまでも裁判を念頭においた法律的な説明となります。
「裁判以外に念頭に置くべき話があるのか?」と思われるかもしれませんが、あります。
それは、自賠責保険の運用実態です。
自賠責保険は、交通事故における強制加入の保険です。
自賠責保険の制度趣旨は、交通事故における最低限の補償にあります。
そのため、裁判基準と比較すると、慰謝料の基準などが低額です。
しかしながら、最低補償という制度上、裁判と比較すると、優位に働く場合もあります。
まず、今回のケースは、被害者の基本過失が、90%です。
そのため、裁判であれば、総損害額の1割が相手方から獲得できる金額となります。
ところが、自賠責保険によれば、被害者の基本過失が90%であっても、傷害分は、自賠責保険が認定する損害額の8割、死亡分・後遺障害分は、自賠責保険が認定する損害額の5割となります。
今回のケースにおける自賠責保険の認定する傷害分の損害額は120万円であり、その8割は、96万円でした。それゆえ、仮に、死亡結果との因果関係が否定されたとしても、自賠責保険からの獲得金額が裁判の場合における相手方からの獲得金額を上回ることが想定されました。そして、当該金額は、医療調査費用や弁護士費用を賄うに十分と判断しました。
以上のような理由により、着手金や預り金を頂戴することなく、対応することとしました。
最終的には、死亡との因果関係は認められなかったものの、後遺障害10級が認定されたため、傷害分とあわせて、418万7000円を獲得することができました。
鋭い方は、なぜ418万7000円であるか疑問を持たれたかもしれません。
すなわち、基本過失を90%とすると、傷害分(120万円)の8割、後遺障害分(10級:461万円)の5割となるため、96万円と230万5000円の合計である326万5000円が獲得金額となるはずであるからです。
実は、過失割合が8割以上9割未満の場合、死亡・後遺障害分は、自賠責保険が認定する損害額の7割となります(9割以上10割未満と比較して、2割増となります)。
そして、本件は、相手方からの物的損害の請求に関する訴訟において、過失割合が「85:15」として、和解を成立させていました。
自賠責保険は、裁判所の判断を尊重する傾向にありますので、裁判所の判断における過失割合を基本過失割合から5分(ごぶ)修正したことが、自賠責保険からの後遺障害分における獲得金額を2割増額させる結果となったということになります。
私は、交通事故の専門家です。依頼者の方が真に望んでいたであろう死亡結果との因果関係が肯定されることはありませんでしたが、最善の結果を目指して尽力する反面、次善の策として、準備できることも周到に準備することがプロとしての姿と考えています。
困難な案件に関しては、必ずしも依頼者の方が思うような結果が付いてくることばかりではありません。困難な案件であっても、困難を理由に諦めることなく、かつ、依頼者の方に過度な負担を求める結果とならないように、日々研鑽に励んでいきたいと思います。