自賠責で因果関係が否定された場合の対処方法とは? その1

こんにちは。

弁護士の大薄(おおすき)です。

先日、東京地方裁判所民事第27部で和解が成立したので、ご報告いたします。

事案の概要は、以下のとおりです。

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停車中の追突事故。

被害者の方は、9か月程度通院。

相手方保険会社は、6か月間、治療費の支払いを対応。

その後、被害者の方は、3か月分の治療費等を自賠責保険へ請求するも、因果関係否定との判断がなされる。

当該判断を受けて、相手方保険会社は、すでに支払った治療費の返還などを求めて被害者を提訴。

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交通事故の被害にあったにもかかわらず、保険会社から逆に訴えられるという非常に特殊なご案件でした。

相談者の方も何が起きているのか理解できていないようでした。

まず、被害者の方が訴えられることとなった経緯をご説明します。

今回の事故は、停車中の追突事故でした。

過失割合としては、相手方が100%悪い事故となります。

ただし、今回の事故は、渋滞待ちで停車中の相手方車両が、ブレーキを緩めてしまった際に、被害者の方の車両に衝突してしまったというものでした。

いわゆる、クリープ現象による追突事故ということになります。

クリープ現象による追突事故は、衝突による衝撃が比較的小さいとされています。

そのため、①そもそも受傷するような事故態様ではない、②受傷したとしても必要な通院期間は1か月程度であるなどという主張が相手方からなされることも少なくありません。

今回の事案では、クリープ現象による事故であるにもかかわらず、相手方保険会社は、6か月間の治療費を支払っていました。

保険会社の担当者としては、6か月までであれば、自賠責の範囲内で治療費等を回収できるため問題ないと考えていたのだと思います。

もっとも、被害者の方の症状は、6か月経過後も続きました。

それゆえ、被害者の方は、被害者請求により、治療費の回収を試みました。

被害者請求とは、加害者の自賠責保険に対して、被害者の方が治療費や慰謝料等を直接請求する手続となります。

自賠責保険の上限額は、120万円です。そして、すでに保険会社が支払った治療費やその期間に対応する慰謝料は120万円から差し引かれます。

今回の被害者の方は、保険会社による6か月間の対応を考慮してもなお、自賠責保険の120万円の枠が余っていたため、治療費を回収すべく被害者請求を実施したとのことでした。

通常、このような状況で被害者請求を実施すると、保険会社が支払った6か月分の治療費やその期間に対応する自賠責基準の慰謝料を120万円から差し引いた残額が自賠責保険から支払われます。

ところが、今回の事案では、自賠責保険は、保険金を一切支払わないとの判断をしました。

理由は、今回の事故態様からすると、受傷の事実が生じるとは考えられないというものでした(因果関係否定)。

そのため、被害者の方は、3か月分の治療費及び自賠責基準による慰謝料を回収することができなくなってしまいました。

また、因果関係否定の判断は、被害者の方のみならず、相手方保険会社を当惑させる事態も招きました。

というのも、先ほど述べたように、相手方保険会社の担当者は、すでに支払った6か月分の治療費やそれに対応する慰謝料を、最終的に自賠責保険に請求するつもりであったと考えられます。

しかしながら、自賠責保険が因果関係否定の判断を下したため、保険会社としても、6か月分の治療費等を自賠責保険に回収できないこととなってしまいました。

それゆえ、このままの状態だと、すでに支払った6か月分の治療費は、保険会社の持ち出しとなります。

このような場合、多くの保険会社は、今まで支払った治療費の返還は求めない代わりに、慰謝料等を別途支払うことはしないとする内容での合意を被害者の方に求めることが少なくないです。

ところが、今回の保険会社は、①すでに支払った治療費の返還請求と②今回の事故に関して保険金を支払う義務がないことの確認を求める訴訟を被害者の方に提起してきました。

①を不当利得返還請求といいます。②を債務不存在確認請求といいます。

私が担当したのは、このように相手方から被害者の方が訴えられた後のこととなります。

それでは、このような案件に対しては、どのような解決方法があるのでしょうか。

また、実際にどのような解決となったのでしょうか。

長くなりましたので、続きは次回といたします。