CRPS様の症状 その2
こんにちは。
弁護士の大薄(おおすき)です。
前回に引き続き、CRPSに関する和解のお話になります。
前回は、CRPSによる後遺障害が認定されると、後遺障害等級としては、7級、9級、12級のいずれかが認定されるが、自賠責保険が依頼者の方に認定した後遺障害は、14級9号であったこと
自賠責保険が14級9号の認定にとどめたことは、我々にとって、予想外の出来事ではなかったこと
までお話いたしました。
それでは、なぜ我々にとって、自賠責保険が14級9号の認定にとどめたことは、予想外の出来事ではなかったのでしょうか。
というのも、自賠責保険の後遺障害認定手続におけるCRPSと臨床医学の診断におけるCRPSは、同じCRPSであっても、その認定要件が異なるからです。
具体的には、自賠責保険の後遺障害認定手続では、「骨萎縮」がCRPS該当性の要件となるのに対し、臨床医学上は、「骨萎縮」が要件とされません。
自賠責保険の後遺障害認定手続は、相手方に対する損害賠償責任の有無およびその程度を判断する手段のひとつです。
そのため、臨床医学よりも厳しい認定要件が設定されています。
また、交通事故事件は数多く発生しているため、自賠責保険の後遺障害認定機関も、非常に多くの事件を取り扱っています。
それゆえ、迅速な判断という観点からも、形式的・客観的な要件として、「骨萎縮」が要求されています。
ただし、裁判所は、良くも悪くも自賠責保険の判断に拘束されません。
従って、臨床医学上、CRPSと認定されていることを理由として、自賠責保険が認定した後遺障害等級以上の等級を求めて争われることが少なくありません。
もっとも、裁判所は自賠責保険の判断に拘束されないというものの、裁判所も医学的素人であるため、自賠責保険の判断は、裁判実務上、極めて尊重される傾向にあります。
具体的には、自賠責保険で後遺障害等級が認定された場合には、裁判所もその認定された等級であることを前提に、認定された等級を超える等級を求める側(場合によっては、認定された等級未満の等級を求める側)に立証を強く求めていきます。
これを法律用語では、事実上の推定が働くといいます。
それでは、今回の事件を見ていきましょう。
今回の依頼者の方に認定された自賠責保険における後遺障害等級は、14級9号でした。
そのため、裁判上も、14級9号であることに対する事実上の推定が働きます。
後遺障害が認定されますと、後遺障害が残存することによる将来の労務に対する不利益を考慮した賠償を受けることができます。
これを逸失利益といいます。
逸失利益は、原則として、①ご自身の事故前年度の年収に②認定された後遺障害等級に応じた労働能力喪失率を乗じたものへ③症状固定時から67歳までの労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数(将来の収入を先取りすることの利益を控除した係数)を乗じて算定されます。
14級9号が認定された場合の労働能力喪失率は、5%ですが、労働能力喪失期間は、通常、5年間に制限されます。
今回の裁判の主な目的は、依頼者の方の症状に鑑みると、①労働能力喪失率は5%にとどまらない、②労働能力喪失期間も5年間にとどまらないという訴えを裁判所に認めてもらうことでした。
自賠責保険で認定された後遺障害等級は、14級9号であるため、労働能力喪失率が5%、労働能力喪失期間が5年間という事実上の推定が働きます。
それゆえ、こちら側に強く立証が求められます。
また、前回もお話したように、東京地方裁判所の裁判官は、全国の裁判所と比較しても、群を抜いて交通事故の事件を多く取り扱っています。
日本の交通事故事件に関する裁判をリードする立場にあることもあってか、保守的な判断がなされることも少なくありません。
しかしながら、今回の裁判官からは、労働能力喪失率は5%であるものの、労働能力喪失期間を15年間とする和解案が提示されました。
依頼者の方がCRPSであることを正面から認めた内容ではないものの、通常の14級9号にとどまらない症状であることを十分に考慮いただいた結果の和解案であるといえます。
CRPSではないものの、CRPSと同様の症状が発症していることを、CRPS「様」(よう)の症状と呼んだりします。
先日、当該和解案を基礎とした和解が無事にまとまりました。
総損害の額としては、通常の14級9号であれば、350万円程度であるところ、1000万円を超える損害が発生したと認められました。
和解ですので、こちら側の主張がすべて認められた訳ではありませんが、和解が成立したことを依頼者の方にお伝えした際の安堵の表情と感謝のお言葉ですべてが報われた気がしました。
今後も、困難な事件であっても、結果に強くこだわって、粘り強く解決に向けて尽力していきたいと思います。