自賠責保険への異議と後遺障害の永久残存性 その2
こんばんは。
弁護士の大薄(おおすき)です。
それでは、前回の続きです。
私の見通しは、なぜ良い意味ではずれたのでしょうか。
まず、私はなぜ「認定可能性はあるが、裁判は避けられない」という見通しを持ったのでしょうか。
平たくいえば、交通事故における後遺障害が問題となる場合には、まず、損害保険料率算出機構の判断を受けます。
そして、その判断に不服がある場合には、裁判所の判断を受けます。
損害保険料率算出機構とは、国が運営する組織であり、交通事故における後遺障害の認定を客観的・中立的に実施しています。
損害保険料率算出機構は、大量の案件を客観的・中立的に処理しなければならないため、後遺障害等級認定の判断は、良くも悪くも、画一的・形式的になる傾向にあります。
他方、裁判所の判断は、損害保険料率算出機構ほど案件が大量ではないため、損害保険料率算出機構の判断と比較すると、実質面も重視される傾向にあります。
ここで、損害保険料率算出機構が画一的・形式的な処理を重視する傾向を示すキーワードとして、「後遺障害の永久残存性」という言葉をご紹介いたします。
後遺障害とは、その名の通り、将来に渡って永続的に残存するであろう障害のことです。
「後遺障害の永久残存性」とは、後遺障害が将来に渡って永久に残存する性質のものである以上、いったん同一部位に後遺障害等級が認定されると、その等級を上回るような後遺障害が認められない限り、同一部位に後遺障害等級認定がなされないことをいいます。
今回の依頼者の方は、約15年前に首に関して後遺障害14級9号が認定されており、事前認定では、以前に後遺障害14級9号が認定されていることを理由として、首に関する後遺障害該当性が否定されていました。
すなわち、事前認定では、「後遺障害の永久残存性」を理由に否定されたといえます。
しかしながら、裁判上、後遺障害14級9号の障害は、永久に残存するものではなく、残存期間は5年程度に制限される傾向にあります。
また、現に、依頼者の方も、今回の事故までに、約15年前に負った首の痛みは、全く気にならない状態になっていたとおっしゃっていました。
そして、裁判上は、後遺障害14級9号の実態を踏まえ、以前に後遺障害14級9号が認定されていたとしても、それだけを理由に、後遺障害14級9号の該当性が否定されることにはなりません。
私は、事前認定における非該当の理由や依頼者の方からのお話などを考慮して、異議申し立てでは「後遺障害の永久残存性」の理屈があるため、認められない可能性が高いが、裁判であれば後遺障害14級9号を獲得できる可能性があると考えました。
以上が、私の「認定可能性あるが、裁判は避けられない」との見通しを持った理由です。
それでは、なぜ私の見通しは良い意味ではずれたのでしょうか。
長くなりましたので、続きは次回にいたします。